2012年5月2日(水)~6日(日) @下北沢Geki地下 Liberty

黄色い叫び

 
 

―その夜、台風はその夜、台風は勢力を保ったまま九州地方に接近していた。


「去年の台風で死んだ人のためにも祭りはやるべきだ」「それよりも災害対策は今のままでいいのか?」「対策をするにも国からおりる予算じゃ足りない」「なぜ地方は切り捨てられるのか?」


 正論は必ずしも解決を導かない。均等が平等とは限らない。理想と現実の折衷は答えにはならない。机上の論戦の後、それぞれに避け難い現実が突きつけられる。 

 

災害という闇と真っ向から向き合い、一筋の光を見つけようとする、若者たちの叫び

台風の夜、若者たちの想いがほとばしる群像劇

「黄色い叫び」への想い


 去年、東日本大震災を受け、自分とあの震災をどう結び付けたらいいか、頭では考えていても精神的にはまだまだ混乱状態だった頃、僕は芝居と現実の両方で、答えが出ない自分を見つめもがいていました。そんな時に中津留章仁さんの「黄色い叫び」という作品に出会いました。新宿のタイニイアリスという、50人ほどしか収容出来ない小さな劇場でそれは公演されていました。始まって数分で、僕の心はわしづかみにされました。


テレビでも、仲間内での会話ですらも、震災のことに関してはまだどう扱っていいか悩んでいる頃で、CMソングでは「上を向いて歩こう」が流れていたり、演劇などでも「これはもしかしたら震災とかけているのかな」と想像させる演出だったり、曖昧に震災に触れることが多い時期でした。


そんな時、この「黄色い叫び」では、思いっ切り3月11日について語られていたのです。それも極めて冷静な目線で。賛否両論が間違いなく飛び交う内容でしたが、作者の中津留さんが震災と死ぬ気で向き合い、命懸けで書いた作品だということがひしひしと伝わって来ました。僕にとって人生で初めて聞く衝撃的な台詞の連続で、観てるこちら側が始まりから終わりまでアドレナリンが止まらない


 僕が観た作品は実は再演で、この初演は4月に行われていました。「震災からわずか1ヶ月で発表したのか!」挫折にも似た感動を味わい、その衝撃は未だに拭い去ることが出来ません。


 「災害と人間」「主要都市と過疎地方」という人間がいつまでも持つであろう普遍的なテーマを扱っている作品です。50年後でも100年後でも、逆に50年前でも100年前でも通用する物語なのではないかと僕は思っています。


 僕が味わった挫折ともいうべき感情を、一人でも多くの人に伝えたい。 この作品がどなたかの表現者の心に伝わり、再び中津留さんの鎮魂歌が違う人の手によってうたわれて欲しい。違うカンパニーがこの台本を上演し続けることによって、この優れた台本を単なるオリジナル作品でなく、古典作品として下の世代に繋げたい。様々な想いが詰まった作品です。

 
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